生物資源学科

昆虫学研究室

Laboratory of Entomology

昆虫を知り、農業を知る

上船雅義 教授上船雅義 教授

武藤将道 助教武藤将道 助教

研究内容

1. 昆虫類の小さな卵の中で起こる胚発生過程を厳密に追跡し、比較検討を通して各群の本質的な特徴(グラウンドプラン)を把握、そしてこれらのデータと論考に基づき、昆虫類の進化の過程を描き出すという、比較発生学的な立場からの研究を行っています。

2.寄生蜂や捕食者を使った生物的防除に取り組んでいます。害虫防除のため、野外で寄生蜂や捕食者を呼び寄せ圃場に定着させる技術や、植物の香りで害虫を忌避する研究を行っています。

研究室だより

第 43 回菅平動物学セミナー@筑波大学菅平実験所(2024 年 12 月 6–8 日)【過去(2024年度から)の研究室だよりはこちらからご覧いただけます!

筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所で行われた第 43 回菅平動物学セミナー、およびその前後の実験所内外での様子を紹介します。菅平動物学セミナーとは、武藤の指導教員の先生が学生時代に開始された 40 年以上の歴史を誇るセミナーです(卒業研究発表の予行として発足したと伺っています)。初期のころは前口動物に限られていた分類群も現在は動物界まで拡張しており、発表内容も多岐にわたります。名古屋からはセミナー開始時刻(午前 9 時)に間に合わせるのは厳しいこと、せっかく菅平に行くなら研究発表以外にもフィールド採集や電顕観察も行いたい、などの理由で前泊することとしました。ちなみに名城大学から菅平まで車で 4 時間近くかかります…

菅平のふもと、上田まのそば屋で腹ごしらえをしてから実験所入りし、まずは構内の大明神沢をめざします。ここは武藤が学生時代、たくさんのカワゲラを採集した場所です。今回参加したカワゲラの学生がミネトワダカワゲラの採集を強く希望したため、大明神滝(非公開)周辺で幼虫を探すのですが…現地は氷点下近い気温であり、滝の飛沫が凍り付いてしまい、石を起こすのも一苦労。そんな状況で石をひっくり返しても幼虫は見つからず…結局別の場所でミドリカワゲラ科と思しき幼虫が発見されたのみで、トワダには出会えず。
採集ののち、当実験所に設置されている透過型電子顕微鏡(TEM)を使って、水生半翅類の卵を観察しました。あいにく電子染色の過程で生じた汚染がみられましたが、それ以外の状況に致命的な問題はみられませんでした。すなわち、名古屋での試料の固定、樹脂包埋、超薄切片作成、支持膜作成の各プロセスは次第点だったという事です。これは昆虫学研究室で TEM 観察の研究体制を構築している武藤にとって大きな収穫です。
ここで時間切れとなり、ホテルに移動して夕食。ここで私たちと同じく前泊をしているセミナー参加者と交流する機会がありました。夕食後、再び実験所入りしてスライドのチェックなどを行いました。

翌日、セミナー当日ではありますが武藤は名古屋へ戻らないといけません。午後に講義があるからです。普通ならこのような場合セミナーには参加しないのですが、武藤はあえて菅平からの名古屋への日帰り出張を選択しました(菅平から長野へ行くため山道を下るのですが、積雪があったため運転に非常に神経を使いました…)。夜に菅平に戻ってくると、参加者のみなさまからは、学生の発表が上手であったとお褒めの言葉をいただきました。指導教員という後ろ盾がいない状況で立派に務めを果たしてくれたようでとても安心しました。

最終日はセミナー会場の片づけをした後、武藤は指導教員である町田龍一郎先生や町田先生の教え子の皆さんと歓談し、学生は再び構内散策へ。前日までに 10 センチほどの積雪がありましたが、その雪上にはリスやキツネなどの足跡が残されていたり、クモガタガガンボやタマバチといった冬季に活動する昆虫が歩いていたりしていたようです。特に昆虫を発見できたことが学生たちには印象深かったようで、時間の許す限り雪上の昆虫採集を楽しんでいました。
昼前、名残惜しくも名古屋へ帰らねばならず、帰路を進みます。途中伊那にある著名な直売所、グリーンファームに立ち寄りました。信州といえば昆虫の伝統があり、特に伊那地域にはざざむしと総称される川虫(トビケラやカワゲラなど)を食べる文化が日本で唯一存在する特筆すべき地域です。そんな立地にある直売所には、伝統的な昆虫食(イナゴ、ハチの子、カイコ、ざざむし)はもとより、クマ肉、鹿肉、地元の野菜、さらに骨董品?の数々・・・きわめて雑多な商品が販売されていました。
夕方、無事に研究室に到着。2 泊 3 日の長丁場ではありましたが、学生たちはそのまま採集品の整理や研究のルーティンに取り組んでおり関心いたしました。 みなさまお疲れさまでした、次回はスケジュール調整をして、フルで参加したいと強く誓いました。

研究室からのお知らせ

一部の内容(空色の文字)には外部リンクを設定していますので、ぜひご覧ください!

【2024 年度】
12/13:修士 1 年 4 名、武藤助教、上船教授が愛知県農業試験場・名古屋大学で行われた愛知県農学系 4 機関研究会に参加し、修士学生が研究成果を発表しました。
12/6-8:学部 4 年生 2 名、修士 1 年 2 名、武藤助教が筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所(長野県上田市)で ①透過型電子顕微鏡観察、②構内でのカワゲラ・雪上昆虫採集、③第 43 回菅平動物学セミナーに参加し研究発表、の 3 点を実施しました。
12/4:武藤助教が東北大学内にある次世代放射光施設ナノテラスでコオロギ胚・カワゲラ幼虫の観察を行いました。
12/4:武藤助教がイシノミの分類について研究した論文が分類学の国際的専門誌 Zootaxa に掲載されました(本文はこちらから)。
11/16:昆虫学研究室学部有志(3 年、4 年、修士 2 年)、上船教授、武藤助教が第 42 回農学部スポーツ大会に参加しました。今年の競技はソフトバレー、午前と午後に 2 回のリーグ戦を行いました。午前のリーグ戦は 0 勝 4 敗、午後は 1 勝 3 敗でした。
11/10-14:名古屋国際センターで開催されている「全国キャラバン3QUESTIONS 東海地区編」に武藤助教が出展しました。
10/26:附属農場で開催された収穫祭に、学部 3 年生 2 名、上船教授、武藤助教が参加しました。
9/22-23:岐阜大学位山演習林(下呂市)で開催された水生昆虫談話会第 508 回例会に学部 4 年生 4 名(オンライン参加 1 名を含む)、武藤助教が参加し、学部 4 年生 1 名が口頭発表を行いました。
9/18:春日井市の生涯学習事業「名城大学連携講座「アグリサイエンス講座-農と生物のチカラ-」(名城大学農学部附属農場で 4-9 月にかけて 6 回開催)において、上船教授が「天敵を用いた害虫防除」と題した講義を行いました。
9/12:中日新聞に掲載された「本社格納庫で奇妙な虫発見…正体は? Xで情報集まる、専門家もほぼ断定」で、武藤助教が解説をしました。
8/25-30:京都国際会館で第 27 回国際昆虫学会議(ICE2024KYOTO)が開催されました。昆虫学研究室からは武藤助教が参加し、カワゲラ目の発生学的研究に関する口頭発表を行いました。
8/3-4:天白キャンパスでオープンキャンパスが行われ、昆虫学研究室ではオープンラボを通して多くの来場者に研究紹介を行いました。また、武藤助教が「なんと素晴らしい昆虫たち!その繁栄の秘密とは」と題した模擬講義を実施しました。
6/15:附属農場で開催された田植祭に、学部 3 年生 2 名、上船教授、武藤助教が参加しました。
6/14:当研究室所属の 3 年生(安田さん)の活動が学生紹介サイトで紹介されました。
6/1:武藤助教が兵庫県たつの市で開催された第 22 回カワゲラ懇談会に参加し、「ニュージーランドで出会ったカワゲラたち」というタイトルで話題提供を行いました。
5/22:現在、愛知県内で果樹を加害するカメムシ類が多く発生しています。このことについて、上船教授が同日放送の NHK 名古屋放送局「まるっと!」で解説しました
5/17-18:武藤助教が菅平高原(長野県上田市)で開催された第 60 回日本節足動物発生学会大会で第 3 回日本節足動物発生学会奨励賞「安藤裕賞」を受賞し、「カワゲラ目および原始的な昆虫類の比較発生学的研究」と題した受賞講演を行いました。
4/1:今年度は学部生 3 年生 21 名、4 年生 16 名、修士 1 年 4 名、2 年 2 名の体制で 1 年間動いていきます。

【2023 年度】
3/28-31:仙台国際センターで行われた日本昆虫学会第84回大会・第68回日本応用動物昆虫学会大会合同大会で、学部 4 年生 4 名、大学院生 2 名がポスター発表を、武藤助教が口頭発表を行い、研究成果を発表しました。
3/18:学位記授与式が挙行されました。学部 4 年生 16 名が当研究室を卒業します。新天地での活躍を期待しています。
2/10:農学部卒業研究発表会が開催され、学部 4 年生 16 名が 1 年間の研究成果を発表しました。
12/15:名城大学で行われた愛知県農学系 4 機関研究会に大学院生が2名参加し、研究成果を発表しました。
11/25:武藤助教が筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所で行われた第42回菅平動物学セミナーに参加し、研究成果を発表いたしました。
11/24:武藤助教が中部経済新聞 「オープンカレッジ」にて「物陰に潜む銀鱗の昆虫・シミ 昆虫類の進化、消化管から考察」と題したコラムを寄稿しました。
6/30-7/1:武藤助教が裏磐梯(福島大学)で行われた第 59 回日本節足動物発生学会大会に参加し、研究成果を発表いたしました。
6/17:上船教授が天白区連携講座「親子で楽しい理科学教室」で「知ってみよう 植物と昆虫の香りの世界~植物の気持ちになってみよう~」と題した講座を担当しました。
4/3:武藤助教が着任しました。

<上船教授の近況>
長い時間研究室にこもり実験データーの分析などを行っていますが、時々、専攻生と卒業研究の進め方や実験結果の分析方法について何時間も熱心に議論を続けるため、気が付けば飯抜きのこともあります。主に昆虫の視点から研究を行っていますが、植物がどのように害虫から身を守っているのか植物からの視点でも研究を進めています。学部内で統計処理に詳しいため、他の研究室の学生も相談に来てくれます。分析後に、統計結果を受けて何が言えるのか学生と議論するのが楽しいです。

<武藤助教の近況>
昆虫類の系統進化に興味があり、比較発生学・比較形態学を専門として研究に取り組んでいます。これまではカワゲラやシミといった昆虫類を対象としてきましたが、半翅系昆虫(ハジラミ、キジラミなど)にも興味があります。また、カワゲラ・シミ・イシノミを対象とした自然史研究(分類学・配偶行動・生活史)や、東海地方の無翅昆虫類相・水生昆虫相の解明といったテーマにも取り組んでいきたいと考えています。よろしくお願い申し上げます。

<卒業研究のテーマ>
テーマ1:捕食性カメムシの代替餌の探索
テーマ2:植物の香りを用いた害虫防除法の開発
テーマ3:植物ホルモン様物質を用いた害虫防除法の開発
テーマ4:寄生蜂の視覚利用に関する研究
テーマ5:ゼニゴケと植食者の相互作用に関する研究
テーマ6:ヒメカメノコテントウの交尾行動に関する研究
テーマ7:植物間コミュニケーションに関する研究
テーマ8:植食者の植物の防衛に対する対策
テーマ9:2次植物(ソバ)を用いた天敵保護に関する研究
テーマ10:特定外来生物クビアカツヤカミキリに関する研究
テーマ11:水生半翅類の比較発生学的研究
テーマ12:カワゲラ目の生殖巣の発生学的研究を見据えた幼虫飼育法の確立
テーマ13:マダラシミの後胚発生過程に関する研究
テーマ14:名古屋市および半田市の土壌動物相に関する研究

最近の主な論文・著書

Mtow S, Machida R (2024) What are Halomachilis akkesiensis and Halomachilis kojimai described from Hokkaido, Japan? (Insecta: Archaeognatha: Machilidae). Zootaxa, 5543 (3): 445–450.

武藤 将道 (2024) ミナミカワゲラ亜目5種のカワゲラ類の卵構造(昆虫綱・カワゲラ目・ミナミカワゲラ亜目). 名城大学農学部学術報告,60:53-63.

Mtow S, Tsutsumi T, Masumoto M, Machida R (2023) Revisiting the formation of midgut epithelium in Zygentoma (Insecta) from a developmental study of the firebrat Thermobia domestica (Packard, 1873) (Lepismatidae) . Arthropod Structure & Development, 73: 101237.

Mtow S, Tsutsumi T (2022) Body pigmentation during embryogenesis first found in stoneflies: a case of Megaperlodes niger Yokoyama, Isobe & Yamamoto, 1990 (Insecta, Plecoptera, Perlodidae). Fragmenta Entomologica, 54: 273-278.

Koeduka T, Takaishi M, Suzuki M, Nishihama R, Kohchi T, Uefune M, Matsui K (2022) CRISPR/Cas9-mediated disruption of ALLENE OXIDE SYNTHASE results in defective 12-oxo-phytodienoic acid accumulation and reduced defense against spider mite (Tetranychus urticae) in liverwort (Marchantia polymorpha) . Plant Biotechnology, 39: 191-194.

武藤 将道, 吉井 重幸, 塘 忠顕 (2022) 福島県で最近発見された外来カミキリApriona swainsoni swainsoni (Hope, 1840) (コウチュウ目・カミキリムシ科・フトカミキリ亜科) の分布,食害および後食に関する予備的な報告. 昆蟲 (ニューシリーズ), 25: 18-24.

Mtow S, Smith BJ (2022) Notes on the emergence of a stonefly, Stenoperla prasina (Newman, 1845) in New Zealand (Plecoptera: Eustheniidae). Entomologist's Monthly Magazine, 158: 67-71.

Yoshida K, Uefune M, Ozawa R, Abe H, Okemoto Y, Yoneya K, Takabayashi J (2021) Effects of prohydrojasmon on the number of infesting herbivores and biomass of field-grown Japanese radish plants. Frontiers in Plant Science, 12: 695701.

Uefune M, Yoneya K, Yamamoto M, Takabayashi J (2021) The use of synthetic herbivory-induced plant volatiles that attract specialist parasitoid wasps, Cotesia vestalis, for controlling the incidence of diamondback moth larvae in open agricultural fields. Frontiers in Ecology and Evolution, 9: 702314.

Mtow S (2021) A new record of Petrobiellus takunagae Silvestri, 1943 (Archaeognatha, Machilidae, Petrobiellinae) from Sado Island, Niigata Prefecture, Japan. Japanese Journal of Entomology (New Series), 24: 108-110.

Mtow S, Tsutsumi T (2021) First instar nymphs of two peltoperlid stoneflies (Insecta, Plecoptera, Peltoperlidae). Deutsche Entomologische Zeitschrift, 68: 179-188.

Mtow S, Machida R (2021) Thickened srosa and serosal cuticle formed beneath the embryo in eight arctoperlarian stoneflies (Insecta, Plecoptera). Proceedings of the Arthropodan Embryological Society of Japan, 53: 9-13.

Mtow S, Smith BJ, Machida R (2021) Egg structure of five antarctoperlarian stoneflies (Insecta: Plecoptera, Antarctoperlaria). Arthropod Structure & Development, 60: 101011.

Uefune M, Abe J, Shiojiri K, Urano S, Nagasaka K, Takabayashi J (2020) Targeting diamondback moth in greenhouses by attracting specific native parasitoids with herbivory-induced plant volatiles. Royal Society Open Science, 7: 201592.

Abe J, Uefune M, Yoneya K, Shiojiri K, Takabayashi J (2019) Synchronous Occurrences of the Diamondback Moth (Lepidoptera: Plutellidae) and its Parasitoid Wasp Cotesia vestalis (Hymenoptera: Braconidae) in Greenhouses in a Satoyama Area. Environmental Entomology, 49: 10-14.

Mtow S, Machida R (2019) Note on the thickened serosa and serosal cuticle formed beneath the embryo in Scopura montana Maruyama, 1987 (Insecta, Plecoptera, Scopuridae). Proceedings of the Arthropodan Embryological Society of Japan, 52: 11-14.

Mtow S, Machida R (2018) Development and ultrastructure of the thickened serosa and serosal cuticle formed beneath the embryo in the stonefly Scopura montana Maruyama, 1987 (Insecta, Plecoptera, Scopuridae). Arthropod Structure & Development, 47: 643-654.

Takai H, Ozawa R, Takabayashi J, Fujii S, Arai K,Ichiki RT, Koeduka T, Dohra H, Ohnishi T, Taketazu S, Kobayashi J, Kainoh Y, Nakamura S, Fujii T, Ishikawa Y, Kiuchi T, Katsuma S, Uefune M, Shimada T, Matsui K (2018) Silkworms suppress the release of green leaf volatiles by mulberry leaves with an enzyme from their spinnerets. Scientific reports, 8: 11942

Ozawa R, Ohara Y, Shiojiri K, Uchida T, Kakibuchi K, Kugimiya S, Uefune M, Takabayashi J (2018) Uninfested plants and honey enhance the attractiveness of a volatile blend to a parasitoid Cotesia vestalis. Journal of Applied Entomology, 142: 978-984

Rim H, Uefune M, Ozawa R, Takabayashi J (2018) An omnivorous arthropod, Nesidiocoris tenuis, induces genderspecific plant volatiles to which conspecific males and females respond differently. Arthropod-Plant Interactions, 12: 495-503

Yoneya K, Uefune M, Takabayshi J (2018) Parasitoid wasps’ exposure to host‑infested plant volatiles affects their olfactory cognition of host‑infested plants. Animal Cognition, 21: 79-86

Mtow S, Machida R (2018) Egg structure and embryonic development of arctoperlarian stoneflies: a comparative embryological study (Plecoptera). Arthropod Systematics & Phylogeny, 76: 65-86.
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