天敵の代表格:寄生蜂

 寄生蜂の進化と多様性
 ハチの先祖は幼虫がマツの花粉や植物の葉,あるいは朽木の材を食べて成長していたと考えられています.朽木の材を食べていたキバチ(木蜂)の仲間から寄生蜂が進化したと考えられています.

 寄生蜂の雌は他の昆虫の蛹や幼虫(寄主)に卵を産みつけ,孵化したハチの幼虫が寄主昆虫の体を食べつくして成長します.このため,本当の寄生とは異なるため「捕食寄生」と呼ばれています.
 ハチの成虫は産卵をうまく行うために,「
」をくびれさせ,腹部を自由に動かすことができます.産卵管が長いのはキバチ譲りです.寄主を半殺しないしは麻酔するために,産卵管に付随する毒腺の毒の成分が次第に変わってきました.

 寄主の外側から食べるのを,
外部寄生蜂と呼びます.寄主の体の外側に卵を産み,ハチの幼虫は消化液を注入して寄主の体内を溶かし,数日間で食べつくしてしまいます.寄生方法としては簡単なのですが,外部寄生の場合,寄主が何かにおおわれていないと,ハチの幼虫も危険です,この条件を満たしている寄主昆虫は意外と少ないのが問題点です.


 一方,寄主を内部から食べるのを,
内部寄生蜂と呼びます.内部寄生蜂は寄主の体の中で育つので,寄主は自由生活をしていてもかまわないのですが,体の内部に寄生することは非常に困難でした.
 寄主昆虫の体にも自己防衛の機能が備わっています.体内に病原菌などの異物が入ってくると血液の中の「
血球」(白血球に相当)が食作用で対抗します.しかし,寄生蜂の卵や幼虫などの巨大な異物が入ってきたときは,たくさんの血球で異物を取り囲んで「包囲作用」で殺してしまいます.
 内部寄生蜂は様々な手段で寄主の包囲作用を突破しなければ寄生することはできません.

このように,内部寄生蜂の場合には寄主が変わると,寄主の血球の反応が変わってしまうため,寄主範囲を広げるためには種分化をする必要があったようです.

 昆虫の卵の中に寄生する
卵寄生蜂も出現しました.バッタ目昆虫の卵のように大型の卵に寄生するハチは体長が5mm前後あります.しかし大部分の卵寄生蜂はもっと小型の昆虫卵に寄生するので,ハチの体長はわずか1mmとか0.4mmしかありません.体長0.4mmのハチでもりっぱな触角や翅があり,空中を飛ぶことができます.


 狩蜂の進化
 外部寄生蜂の最大の問題は何かの覆いが必要なことです.そこで,ハチ自身が部屋を用意する行動が発達し,これが狩蜂と呼ばれるグループになりました.狩蜂では産卵管を「針」に変え,麻酔の打ち込みや防衛用の毒針にしました.狩蜂の仲間から花粉を幼虫の餌にする花蜂が出現しました.これらの仲間の中で社会性を発達させたのが,アリ類,スズメバチ類,ミツバチ類です.

様々な形の寄生蜂

 ヒメバチ上科::ヒメバチ科やコマユバチ科など,比較的大形の寄生蜂が含まれており,たいへん種類数が多く,寄主もチョウ目の幼虫や蛹など,実に多様です.長い産卵管を腹部にぶら下げて飛んでおり,産卵するときは寄主を目の前にして産卵管を突き立てることが多い.


 
タマバチ上科::微小で黒色のハチが多い.ツヤタマバチ科など大部分のグループはハエ目の蛹に寄生しますが,中にはタマバチ科のように植物に虫こぶを作らせて,虫こぶの中を食べて育つ種類もいます.


 
コバチ上科:微小で黒色ないしは緑色金属光沢の種類まで,大変種類数が多く,寄主も実に多様です.代表的なグループは,コガネコバチ科,トビコバチ科,ヒメコバチ科,ツヤコバチ科,タマゴコバチ科(卵寄生蜂),ホソハネコバチ科(卵寄生蜂)などですが,種類数の少ない科もたくさんあります.やはり,産卵管を腹部にぶら下げて飛んでおり,産卵時は寄主の上に乗って産卵管をつきたてることが多い.


 
クロバチ上科:微小で黒色のハチが多い.ハエヤドリクロバチ科はハエ目昆虫に寄生し,個体数・種類数ともに大変多いのですが,意外と目に付きません.タマゴクロバチ科はバッタ目やカメムシ目など様々な昆虫の卵に寄生します.このため,卵寄生蜂としては大型の種類が多い.産卵管は,普段は体内に収容されていて,必要なときに後方に伸ばします.産卵時は後ろ向きになって,全身に力をこめて産卵管を突き立てます.ハラビロクロバチ科はタマバエ類に卵−幼虫寄生をします.


 
セイボウ上科:全身青色金属光沢におおわれた美しいセイボウ科が有名ですが,ナナフシの卵に寄生するナナフシバチや,ウンカ類の幼虫に寄生するカマバチ科など,地味で風変わりな蜂も多い.産卵管は,クロバチ上科と同様,普段は体内に収容されていて,産卵時は後ろ向き産卵です.

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