里山の生物の多様性

 縄文時代(狩猟生活)の「原生林的環境」には,理論的に生物の種類数は最多であった.しかし,シイやカシなどの樹木が優占する常緑樹林帯は,林内が暗くて草がほとんど生えず,大部分の植物は個体数が少なかった.植食性昆虫は種類ごとに食べる植物が決まっているので,マイナーな植物に依存する昆虫も個体数が少なかった.

 弥生時代(農耕生活)以降,原生林的環境は破壊されたため,理論的に生物の種類数は減少した.常緑樹林は伐採され,マキを採ったり炭を焼くための落葉性二次林,すなわち薪炭林に変えられていった.薪炭林は冬から春にかけて林内が明るいため,さまざまな草が生えることができた.一方,民家の周囲は畑に変えられ,果樹や野菜が植えられ,庭先には多様な草花が植えられた.低地は見渡す限り水田に変えられ,イネという1種類の植物が植えられたが,水路と水田の間で水の出入りがあったため,いろいろな川魚や水生昆虫が増殖し,それらを捕食する水鳥もやってきた.このような環境を「里山」と呼んでおり,実に様々な生物が繁殖できる環境になったが,人間による農業活動によってかろうじて保たれていることも事実である.

里山の生物多様性の評価

 生物多様性を評価する場合,基本的には「種類数」が一番の基準になりますが,全ての種類を調査することは不可能です.そこで,一般的には「多様度指数」を用いるます.古くから用いられている多様度指数は,採集された総個体数(N)と1種類あたりの採集個体数(n)とを元に計算します.単純には,N(N-)÷馬(n-1)のような計算式になります.
 この計算式では,いくつかの種類だけが大量に捕獲されると多様度指数が小さくなります.また1個体しか採れていない種類は集計されない欠点があります.逆に,適当な個体数が採れた種類が多いほど多様度指数は高く算出されます.
 左下の模式図は温帯地方の原生林的環境の模式図で,円の大きさは種類ごとの個体数を表しています.種類数は多いのですが,少数の種類が優占し,大部分の種類は個体数が少ないため,多様度指数は小さく計算されてしまします.右下の里山的環境では,自然破壊によって種類数は減少していますが,人間の活動によって多様な環境が作られたため,多くの種類が個体数を増やし,その結果,多様度指数は高く計算されます.

昆虫の多様性の調査方法

 昆虫の多様性の調査は,当然の事ながら昆虫採集から始めます.詳しいことは「昆虫の標本作成法」をご覧ください.ここでは調査方法を中心に解説します.
 最も基本的な方法は,昆虫網を振り回して虫を採ることですが,多様性の調査ではありとあらゆる昆虫を捕獲しますので,スゥイープという採集方法を行います.網の中には膨大な量の昆虫と植物の破片等のゴミがが捕獲されますので,顕微鏡下でゴミの中から昆虫をより分ける作業が非常に大変です.
 もっと効率よく昆虫を捕獲するために,さまざまなトラップがありますが,ここでは主に3種類のトラップを使用しています.同じところで調査を行っても,スゥイープと3種類のトラップとで捕獲される昆虫の種類攻勢が大きく変わりますので,1つの地域の昆虫の多様性を解明するのは容易ではありません.
 

スゥイーピング (Sweeping)

黄色水盤トラップ (Yellow Pan Trap)

羽化トラップ (Emergence trap)

マレーズ・トラップ (Malaise Trap)